人事部長は2度ドアをノックする
From:山極毅
部下「山極さん、すいません。。。また数値が間違っていました」
私(山極)「えっ、まじで!?今度はどこに問題があった?」
2010年の4月に私が人事部に着任してから、
このような会話が結構な頻度で交わされました。
報告すべき内容は、2009年度末の連結子会社別の従業員数と
人件費のレポートでした。
当時私にはボスが2名いました。
1人は、日本事業を統括していた人事執行役員のTさん。
もう1人は、グローバル人事を統括していた専務執行役員のKさんです。
(ちなみにこの元上司のKさんは、ある国際的な事件で現在公判中です。
ぜひとも身体を大事にしてもらいたいです。)
私のタスクは、人員数と人件費の門番役でした。
当時、海外子会社含めた連結会社数はグループ全体で250社、
人件費の予算は1兆円をちょっと超えたくらいでした。
これだけ多くの会社からデータを集め、整合性を確認した上で計算し、
それを経営会議に報告するとなると、だれかがまとめて全部やった方が得策です。
こんなシンプルな理由で、私は日本分の結果をTさん、
グローバル分の結果をKさんに報告することになったのです。
もともとエンジニアで数値の扱いは慣れているし、
商品企画から異動してきたのだから、それくらいできるでしょ?
という思惑だったのではないかと。。。
しかし、蓋をあけてみれば、あたふたと右往左往する毎日でした。
これから、最悪だった話をしますので、笑いながら読んでください。
*******
日本担当のTさん(役員)「山極さん、説明は分かった。
じゃあ、この内容で報告してくるよ」
山極「お待たせしました。よろしくお願いします」
と言い残すと、日本の上司は役員会に出かけました。
「やれやれ、やっと終わった。。。」
と席に戻ってメールチェックを始めたら、
前に座っている部下がこんなことを言いました。
部下「山極さん、すいません。。。数値が間違っていました」
私(山極)「えっ、まじで!?」
たしかに、以前の数値はデータの解釈を間違えていて、
今回の数値が正しいようです。
しかし、上司は既に会議に入ってしまっていて、もう資料は直せません。
「しょうがない、帰ってきたら修正版を報告しよう」
と開き直って待っていると上司が帰ってきました。
すぐに役員室に飛び込んで、お詫びかたがた修正報告しました。
この時、私を部屋を一回ノックしました。
修正報告が終わって席に戻ると、先ほどの部下が言いました。
部下「山極さん、すいません。。。また数値が間違っていました」
私(山極)「えっ、まじで!?今度はどこに問題があった?」
私は、夢の世界に迷い込んでしまったのではないかと、本気で思いました。
そして、役員室のドアに向かって、本日2回目となるノックをしました。
(何が起きたかは、ご想像にお任せします)
*******
人員数を数える、という極めてカンタンそうな作業で、
なぜこんな間違いが発生するのか?
まあまあ皆さんそこそこ頭はいいはずなのに、
なんでこんなことになってしまうのか?
謎は深まるばかりでしたが、2か月くらい経過した時に原因が分かりました。
原因は、「人事の担当者が、頭数を数える時に独自の集計基準を持っていた」
ことでした。
これでは、どんな頭の良い人が仕事していても、
数値の間違いは何度でも起きます。
たとえば皆さんなら、以下のような状況の社員を頭数に入れますか?
それとも除外しますか?
指令:3月末日の在籍人員を計算せよ
・3/31付けで退職したが、3/25が最終出社日だった人
・3/15から3週間の産後休暇を取っていて、4/5から育児休暇に入る人
・3/31に定年退職する人
・2/1から2か月の試用期間で契約社員として採用され、
4/1から正社員に身分変更する人
・3/15に海外赴任先から帰国し東京のオフィスで仕事をしているが、
赴任先の子会社に4/1まで籍がある人。
・子会社から逆出向で親会社の本社にきて仕事をしているが、
人件費は100%子会社が負担している人
分かりやすいのもありますが、判断に悩むものもありませんか?
2020年度からアメリカで情報開示が義務づけられた
ISO30414(人材マネジメントの国際規格)は、こういう地道な集計作業を
ぬかりなく行って、株主や投資家に報告せよ、という内容です。
もし、あなたが今日のメルマガを会社の人事の人に転送して、
3/31付けの人数を数えて欲しいと聞いたとします。
2人に聞けば2通り、3人に聞けば3通りの答えが出てきたとしても、
さほど驚くことではありません。
なぜならば、人間はみな自分の物差しで人を見るからです。
なので解決策は簡単です。
多少強引ですが、自己流の物差しを禁止して正しい物差しを示し、
2度と自分の物差しを使ってはならない!と通達を出すことしかありません。
ISO30414を取り仕切る人事部員には、嫌われ役になる覚悟が必要そうですね。
山極毅
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