上司がAIに負ける日のはなし
From 山極毅 芝浦のオフィスより
「あの・・・少しだけお時間いただけますか・・・」
と、部下から、なんの前触れもなく声をかけられたら・・・
あなたはどうしますか?
今回は、日本交流分析学会が年に1度発行している「交流分析研究」という雑誌の
2023年 第48巻より、非常に興味深い記事をご紹介します。
横浜労災病院 診療内科医の柴山 修(しばやま おさむ)先生が書かれた
「ChatGPTに思う」という記事です。
2022年11月に公開され、リリース後わずか2か月でユーザー数1億人を突破したChatGPT。
このChatGPTの登場でAIにとって代わられる職業リストは様変わりしているそうです。
6・7年前にあった「AにI替わってしまうであろう職業リスト」の中には、
診療内科や臨床心理士は入っていなかったようです。
しかし、ChatGPTが登場して色々なプロンプト
(ChatGPTに対して処理や入力の命令を出す文章)でいろいろなことができるようになりました。
このような時代の今、ChatGPTに人格を与え人と対話させるというふうな
使い方をしている人が出てきているそうです。
私が実際に聞いた話の中でも、「仕事や恋愛の相談を、ChatGPTにしている」という人がいます。
入社して間もない人、社会人になって間もない人が、
会社で辛いことがあっても話を聞いてくれる人がいない・・・
1人暮らしをしていると、なおさらですよね。
その方は何か辛いことがあると、ChatGPTに相談をするそうです。
なぜならば、相談を持ちかけたらものすごく親身になって回答してくれるから。
なので、ChatGPTと話すことが日課になりつつあるとのこと。
人間と違って機械だから、
「今の言い方には傷ついたから、そんな言い方やめて欲しい」
なんていう文句もすぐに言えちゃう。
するとChatGPTは「ごめんなさい」も言ってくれるそうです。
AIは、淡々と寄り添って相談に乗ってくれるようなのです。
ここでふと思うのは、相談に乗ってもらいたい人にとって人間(医師)と機械
(ChatGPTやAI)では、どっちが適切なのか?ということです。
現時点ではAIの実力をどう出すのかは、実は人間が鍵を握っています。
なぜなら、AIにどのような個性設定をして、どのようなペルソナを持たせるかなどは、
人間がコントロールせざるをえないからです。
柴山先生曰く、ChatGPTとの会話が日常になるぐらい浸透しても、
医師の優位性がなくなることはないだろう。
しかし、心療内科の人間としての側面が
もっともっと重要になってくるのではないか、ということでした。
心療内科を訪れる人は千差万別で、症状も似て非なるもの。
病院を受診するとはいえ、症状が同じでも同じ治療方法で治るという確定はありません。
よくある心療内科医師のあるあるは、
「じゃこの症状が出たらこの薬を飲んでくださいね。
そうしたら、ドキドキする症状は収まりますから。」
という流れです。
治療としてはあるのかも知れませんが、あまり寄り添ってもらった感はないですよね。
そして何より医師の仕事は「患者を治す」こと。
話を聞いて、共感して・・・とする前に、患者を治すために
「それはこうした方がいいかもしれないですね。」
「その考え方はやめておいた方がいいでしょう。」
とアドバイスをしてしまいがちです。
その方法では症状はおさまるかもしれませんが、
当の本人の気持ちは何も改善していないのでは?と思います。
心療内科を訪れる人や、悩みを持っていて相談に乗って欲しい人が
本当に欲しいのは「伴走者」ではないかと。
・共感してもらえる
・理解してくれる
・自分を勇気づけてもらえる
・そして、小さな幸せ・小さな成功を褒めてくれて、小さな階段を一段一段と一緒に登ってくれる
自分の背中を押してくれる「伴走者」を必要としているのではないかと思うのです。
交流分析ではこのように、ポジティブなフィードバックのことを「ストローク」と呼んでいます。
その点ChatGPTは、比較的淡々と進めることができるという、いい点があるのではないでしょうか。
もし、あなたが部下から相談をしたいと声をかけられたら、
アドバイスや解決策を求められているのではないということを念頭に置いてみてください。
特に男性管理職の方に多いのが「すぐ課題解決に走る傾向」です。
このような話の聞き方だと部下にとっては
全く自分の話を聞いてもらえなかった・・・
私が言いたかったことは、それじゃない・・・
自分の努力を認められなかった・・・
と、いうことになってしまいます。
上司として大事なことは部下に共感し、寄り添い、話を聞いて、認めてあげること。
対等な立場として話すことは難しいかもしれませんが、
相手を尊重しながら対話をしてみましょう。
山極毅
P.S.
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