会社が儲かっても給料が上がらない本当の理由<4>

<前回のおさらい>

☑ 官製春闘により、過去10年間のトレンドを若干上回る賃上げ成果があった。

☑ しかし、1990年頃までの賃金上昇トレンドには、まだまだ追いついていない。

☑ 首相が直々に要請しているのに、なぜ企業は期待に応えないのか?

 

官製春闘の昇給ペースが鈍ってきた2つの理由とは?

 

前回記事の最後のグラフ(以下に再掲)を見ると、’13 → ’14の賃上げ額に対して、’14 → ’15では昇給ペースが鈍ってきた(傾きが少し寝てきた)ことが分かりました。

 

13-15

<図1.官製春闘後の昇給トレンド>

 

2つの原因によって鈍化しています。今回はその原因をお話しします。

 

原因の1つ目は、企業の利益が増えても給料のアップに結び付かない、リクツがあるということです。

 

まず、以下のグラフをご覧ください。

 

20170106-1

<図2.利益と人件費の関係(リーマンショック後)>

 

このグラフは、営業利益と人件費の全社平均値を、2007年から2015年までの推移をまとめたものです。

 

比較のために、2007年を100としています。

 

リーマンショックの影響で、2008年、2009年の企業収益は大きく落ち込みました。しかし、同じタイミングで給料はほとんど下がっていませんでした。

 

その後、徐々に経済は回復し、2013年に企業の営業利益総額は2007年レベルに回復しました。

20170106-2

<図3.利益と人件費の関係(官製春闘導入後)>

 

 

給料も少しずつ改善し、2014年度にはリーマンショック前の2007年度レベルを超えたことが分かります。

 

つまり、利益が下がっても給料は急に減らない代わりに、利益が上がっても給料は急に増えない、という特性があるということです。

 

日本の終身雇用制のメリットでもあり、今後はデメリットにもなりうる特徴です。

 

過去のデータを見てもそうなっているのか、もう少し見てみましょう。

 

前々回の、会社が儲かっても給料が上がらない本当の理由<2>の記事で、以下のグラフを掲載しました。

 

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<図4.一人当たりの付加価値が増えると給料も増える>

 

横軸が付加価値、縦軸が給料のグラフが右上がりの一直線になっているので、従業員の年収は一人一人が生み出した付加価値に比例している、という事を意味しています。

 

これを時系列で整理し直してみると、以下のようになります。青い線が実際の値で、赤い線が計算値です。

 

1960年から2015年までの55年分を、左から順番に表示しています。

 

20170106-3

<図5.付加価値額が分かると給料総額も予測できる>

 

1985年まで(グラフの左半分)は、実際の値と計算値は良く一致していますが、その後は少しズレが目立ってきています。

 

この計算式は、

 

(従業員の給料)=(付加価値額)×(係数1)+(一定の値)

 

というシンプルなものです。

 

この式をベースに、「利益が上がっても給料はさほど増えない」という先ほどの原則を考慮した計算式を作ってみましょう。

 

この原則を加味すると、以下のようになります。

 

20170106-4

<図5.営業利益を加味すると予測精度は向上する>

 

線と線のスキマが小さくなって、予測精度がアップしたことが分かりますね。

 

この計算式は、

 

(従業員の給料)=(付加価値額)×(係数1)+(営業利益)×(係数2)+(一定の値)

 

という形です。営業利益の影響を加味した結果、予測精度があがりました。

 

ここで大事なのは、係数1はプラスの数値であるが、係数2はマイナスの数値であるということです。

 

つまり、給料の総額は付加価値が増えれば増えるが、営業利益が増えると減る方向に動く、という意外な結果なのです。

 

にわかには信じられませんが、2個目のグラフを見れば分かるように、統計データに基づいた事実なので、否定できません。

 

結果的に、「利益が上がっても給料はさほど増えない」という原則が確かめられたことになります。

 

この分析結果は、付加価値と営業利益が分かれば、給料の総額はかなりの精度で予測できる、ということを言っています。

 

実際の企業の経営企画部、経理部、人事部の皆さんは、この関係式を使うことによって、会社の給料の妥当性を検証することが出来ます。

 

過去の自社のデータから分析するだけでなく、同規模の同業他社のデータと比較すれば、自社の強みや弱みを定量的に分析することも可能になるでしょう。

 

さらに精度を上げたい場合は、別の指標を追加して検討してみることも可能です。

 

例えば以下のグラフでは、ヒミツの指標を使うことで予測の正確性がまた少しアップしました。

 

この計算式は、

(従業員の給料)=(付加価値額)×(係数1)+(営業利益)×(係数2)+(ヒミツの指標)×(係数3)+(一定の値)

 

です。

 

ひとつ前の式でも十分に説明できているので、ここまで凝らなくても実務上は問題ありません。

 

20170106-5

 

<図6.ヒミツの指標を考慮すると、予測精度はほぼ完璧>

 

さて本題に戻りますが、安倍首相が、「業績が回復しているのだから賃上げしてください」と企業にお願いしているにもかかわらず、企業側が賃上げを渋る理由の一つがここにあります。

 

つまり、かつて景気が悪かった時は、企業は自分達の努力でなんとか乗り切った。(国は充分なサポートをしてくれなかった。当時は政権は違いますが。。。)

 

業績が急速に悪化しても給料は維持したのだから、回復したからといっても急には給料は上げられませんよ、と言っているのです。

 

なので経営者は、「頑張った人が報われるようにしたい」というような発言を繰り返すわけです。

 

これはどういう意味かと言うと、

 

「給料の総額は上げられないが、成果の配分の仕方を工夫して業績の高い人に報います」

 

ということなのです。

 

さて、今回の話をまとめたグラフをお見せします。

 

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<図7.給料を上げたいなら付加価値をあげるしかない>

 

多少の誤差はありますが、2007年度を起点にして、付加価値は3.9%アップし、それにつれて給料も3.5%アップした、という極めてリーズナブルな落ち着きどころにいる訳です。

 

付加価値のアップほどに給料がアップしていないのは、先ほどの「利益が上がっても給料はさほど増えない」原則の影響です。

 

さて、今回は理由の1つ目をお話しました。結果的におかしなことにはなっていませんでした。

 

理由が分かればなんてことは無い話です。

 

ところが、問題なのはもう一つのほうの理由です。

 

政府の考えは、「給料を上げれば消費が活発になり、インフレが進んで経済が好循環化する」、というものですが、この3段論法には一つ欠けている点があります。

 

この欠けているものを実現するためにこそ、戦略人事が必要なのですが、まだ誰もその必要性を述べていません。

 

ということで、次回はその「欠けているもの」を説明したいと思います。

 

次回は、このシリーズの最終回です。

 

 

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p.s.

あなたの会社は、人手不足の悪循環に飲み込まれていませんか?

 

給料を上げられないと従業員が採用できない→

採用できなければ付加価値が上がらない→

付加価値が上がらなければ給料があげられない

 

この悪循環から抜け出すための、戦略人事のヒントをまとめています。

 

 

 

 

内容紹介

収益のカギを握るのは人事だ! 「攻めの人事」に変えるだけで労働生産性は2倍に。

カギは「リソースマネジメント」と「タレントマネジメント」を組み合わせた、競争優位を生み出す戦略人事にある。

人材に困らない会社をつくる人事のあり方

日本の労働生産性は先進諸国の間で「最下位」といわれるほど低い。

労働生産性をあげるためには「もっとがんばる」だけではダメ。

優秀な労働力を効率的に活用する「人事部」の力が欠かせないのだ。

では、どうやって労働生産性を上げるのか? そのための人事のあり方は?

 

単行本(ソフトカバー): 224ページ

 

稼ぐ人財のつくり方

◆目次

まえがき
・人財は「管理」から「活用」の時代になった

・日産の大型倒産の危機を救ったのも「人財」 

・人事部はすべてのビジネスの源流をコントロールする

・日本社会の宝となる「人財」の育て方を伝えたい 

 

第1章 これからの日本に必要な戦略的人事(SWP)

・戦略人事の目的はたった1つ

・SWP(戦略的人員計画)の基本は、目的から業務を組み立て直すこと

・「適材適所」と「適所適材」のいいとこどりで生産性を上げる

・攻めにも守りにも使えるリソースマネジメント

・持続可能な成長を実現するタレントマネジメント

・日本のホワイトカラーの生産効率が悪すぎる

・グローバル延べ1800万人の従業員数を数え続けてわかったこと

・人事を数字でエンジニアリングするから「ジンジニアリング」 

 

第2章 9割の人事部はほんとうの仕事ができていない

・人事の仕事は多岐にわたる

・人事の中で「縦割り」が起きるとどうなるか

・人事には戦略を俯瞰して見る職務がない 

・「ヒト、モノ、カネ」で、一番使えていないのがヒト

・人事セミナーで聞いた他社事例が自社で使えない理由

・業務委託に出して良い仕事、悪い仕事

・人事の仕事を「見える化」したら? 

・9割の人事はいらなくなる

 

第3章 人事部の一番大事な仕事はC O E

・戦略人事マップは9ボックスで考えるとうまくいく

・人事はCOEの将来を考えよう

・戦略人事の7つの視点―時間、個人、仕事、コスト、目標、戦略、目的

・会社が生む付加価値を大きくするために人事ができることは何か?

・採用は「入口」だけでなく「出口」も考えて行う

・人事部が会社の中心にいなければいけない理由

・ビジネスのことは事業部が、会社のことは経営者が考えればよい?

・やる気のある会社をつくる人事戦略

・グローバル基準の人事術とは?

・人事部は一般管理部門からの脱却を目指せ

・利益の追求が人の幸せにつながる 

・人事部の一番大事な仕事はCOE

 

第4章 人事部が会社の労働生産性を倍にする

・日本の労働生産性は2倍になってもまだ世界で3位どまり

・人事基本業務をSWPの考え方で再構成(リエンジニアリング)する 

・風土と制度―働きアリ文化は人事部が変えられる

・報酬と人件費1 ―給料を上げるために人事と社員がやるべきこと

・報酬と人件費2 ―付加価値のない仕事をやめる勇気を持とう

・ゴーンさんが人事部に課したタスクはたった2つだった

・人事部は数値(KPI)で人の動きを把握する

・人事部員は、実はビジネスの情報を知りたがっている

・採用―会社と人事の知恵を総動員して、「働く場」としてアピールする!

・育成―ローパフォーマーは実はリーダー候補だった?

・評価―長い目で見た「評価」が結果的に生産性をアップする

・異動―ジェネラリストとスペシャリストの棲み分けと育成

 

第5章 外国人が教えてくれた生産性の高い働き方

・外国人に個人レベルで生産性が高い人が多い理由

・仕事を切らざるを得ないときの新しいMBA

・5つの帽子をかぶった上司が活用していた一石二鳥の方法とは?

・日本人は見切る能力が低い

・不明点は徹底的に最初につぶす

・失敗には寛容、でも、ウソには厳しい

・ルールとは、従うものではなく、つくるものである

・「パワーポイント5枚で数百億円の提案をまとめなさい」と言った外国人役員の狙いは?

・社員を説得しないで納得させる方法 会社が職務を与える時代から、多様なタレントを活用する時代へ

・人事はキャリアコースの多様化を図ろう

 

第6章 社員活用はドラえもんの大キャラクターに学べ

・組織の生産性はどのように決まるのか?

・生産性を低下させる可能性のある意外な日本語は?

・人間は自分と同じタイプが大好き、そのときチームはどうなるのか?

・労働生産性向上の探求の中で出会った FFS( Five Factors and Stress)理論

・無作為に選んだ6人の生産性はたった4・5人分だった

・人間の個性を決める5つのファクターとは?

・他者の個性を認めるのは、その人のストレスを理解すること

・ドラえもんのキャラクター達に適した仕事はなにか?

・組織の個性と仕事の相性を考えるのが、新しい戦略人事の手法

・ダイバーシティが競争力の源泉であることの真の意味とは?

 

第7章 稼ぐ人財をつくる7つのポイント

・ポイント①会社や組織の「総支配人(ジェネラルマネジャー)」を置く

・ポイント②戦略人事9ボックスのフロシキ四隅を対角線で押さえる

・ポイント③会社や組織が必要とする人物像を決める

・ポイント④バリュー(付加価値)と報酬の関係を見える化する

・ポイント⑤ビジネス現場の声を吸い上げて人事戦略に反映する

・ポイント⑥「時間」というリソースをマネジメントする

・ポイント7人事データアナリストを育成して人事戦略を設計する

 

あとがき

・SWPなくして企業や組織の生産性向上はない

 

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