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経営×人事の必須知識(労働装備率)

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前回、自社の生産性と他社の生産性を比較をする際、見落としてはいけない重要な点があると説明しました。なぜ、資本金が多い会社の方が生産性が高いのか?今回はこの点についてご説明します。まず、前回のグラフ(下図)のおさらいです。

graph3

青い●が従業員一人あたりの付加価値生産額と人件費の関係、赤い■が、従業員一人あたりの付加価値生産額と労働分配率の関係でした。会社の規模は、左から右に

1,000万円未満
1,000~5,000万円未満
5,000~1億円未満
1~10億円未満
10億円以上

の5水準で、左から右に大きくなっていきます。会社の規模が大きくなるにつれて、なぜ従業員一人あたりの付加価値生産額が高くなるのでしょうか?これを理解するために、もうひとつの指標を追加します。その指標(B)を縦軸に、横軸は先ほどと同じく一人あたりの付加価値生産額を整理したのが、下のグラフです。

graph2

これも決定係数0.903で強い相関があります。この指標Bは、『労働装備率』と言われる数値です。資本金が大きいほど、労働装備率も大きくなる傾向があります。つまり、従業員一人当たりの付加価値生産額の裏側には、この労働装備率が決定要素として含まれているので、それにともなって大きな資本金の会社のほうが、生産性が高く見えるようになっていたのです。労働装備率という名前で呼ばれていますが、実際は率ではなく従業員一人あたりの固定資産額です。以下の式で求められます。

(期末の有形固定資産額の土地+その他の有形固定資産)/期末従業員数

PLとBSから算出される生産性が向上していたのは、実際は設備投資の恩恵を含んでいたということです。そして、このグラフをもう少し詳しく見ていくと、グラフの線がだんだんと立ってきている(理系用語では下に凸と言います)ことに気が付きます。つまり、設備投資を増やして生産性を上げようとしても、その効率がだんだん悪くなってくる傾向にあることが分かります。この事実は、非常に重要な示唆を与えています。規模の拡大を追い求めて投資を増やしていっても、どこかで設備能力による生産性の向上に限界がありそうだ、ということです。

もちろん、良いニュースもあります。現状設備能力がそれほどない場合は、投資によって生産性を大きく向上できる可能があります。最近、AIが将来の人間の仕事を奪うのではないかと危惧する声があります。しかし、グラフからも明らかなように、機械によって一人当たりの労働生産性を大きく向上すことが可能であることを裏付けています。どのように機械を人間のサポートとして使うのかが大事なのであって、使い方を間違わなければという枕詞つきですが、AI=脅威になるどころか、人間を単純労働や試行錯誤から解放することにより、さらなる生産性向上につながる可能性もあるわけです。

ここで、少しデメリットも考えておかなければいけません。設備導入により生産性を上げる前提として、設備の稼働率をある一定水準に保つ必要があります。以前とは異なり消費者のニーズは多様化してきており、大ヒット商品で生産量を維持することは頻繁に起きなくなってしまいました。そうすると、工場稼働率維持のために商品のバリエーションを増やし、開発、営業、企画、生産技術の人間を採用したくなります。その結果、直接生産に従事しない間接人員の数と、その人件費(日本の労働市場では固定費化する)が増加します。会社が好調の時は良いですが、世界不況(リーマンショック)、業界構造不況(半導体)等の異変が起きると、減少した売上ほどに人件費を減らすことができず、大きな固定費負担により会社は瞬時に赤字に転落します。待っているのはリストラによる人員削減です。

上記のような理由から、戦略人事SWPの考え方を使いながら、ビジネスの予測と自社の人的リソースを定量的に把握し、経営判断の材料を整理しておく必要があります。そして危険性が高いと判断したら、事業部が提出してきた人員計画に対しですら意義を唱える責任があります。将来環境変化に直面したとき、割増し退職金や再就職のあっせん等、将来の不可抗力的配置転換により、会社や個人に辛い経験をさせなくても良いように、平時から経営人事の視点が非常に大切になってくるのです。

資本金が多い会社の生産性が高く見えるのは、労働装備率の高さが原因であることが分かりました。次回は、設備による生産性向上分を補正して、会社の規模別に本当に生産性の差があるのかを検証してみます。
(つづく)

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